のお写真なんかも巻頭にかかげたいと思っておりますの。ねえ、いかがですか」
「いやわかりましたじゃ。つまらぬ評判はもうお聞きおよびのことでしょうから、ひとつ、小話になるような逸話を申し上げますじゃ。なんでも一歳二ヵ月の春でごわした。ある日、わしの荘園におった闘牛師《トレアドール》の仕出しが喰らい酔いよって、何を思ったか細身《ほそみ》をぬいてそこらじゅう刺し廻る、ピストルをぶっ放す、どうも危なくて近寄れません。すると、『ヘルキュレス』のやつがいきなりそっちにかけ出してゆくから、ああ、危ないな弾《たま》にうたれはしないか、と眺めていると、囲い場の柵に乾《ほ》してあった牧夫の赤い腹巻をひょいと角に引っ掛けて行って、その闘牛師の鼻っ先で振り廻し振り廻しして、とうとう怪我《けが》もさせずに番屋へ追い込んだというでごわして、へ、へ、いまでもこのあたりの一つ話になっているくらいでごわす」
「ま、お利口《りこう》だこと」
「なんとも驚きいったものです」と、コン吉とタヌは声をそろえて感嘆すると、会長はうわははは、と喉仏《のどぼとけ》も見えるような大笑いをしてから、
「それから、二歳四ヵ月の夏のことでごわし
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