ノンシャラン道中記
乱視の奈翁 ――アルル牛角力の巻――
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)馬耳塞《マルセーユ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二本|檣《マスト》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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 一、ココナットから象が出る馬耳塞《マルセーユ》の朝景色。マルセーユの旧港《ヴィユ・ポール》。――この四角な、鱒《ます》の孵化場《ふかじょう》のようなもののなかには、あらゆる船舶の見本と、あらゆる国籍が詰め込まれている。二本|檣《マスト》のゴエレット船、地中海の三角帆船《タルタアヌ》、マルタ島のトロール船、バクウの石油船。そうかと思うと古風な三檣砲艦《モニトール》なんてのもいる。だから、独逸《ドイツ》の潜水艦だってそのへんの水の中にくぐっていないわけのものではない。国籍の方はあげて数えるのも愚かである。サルヴァドル国コスタ・リカ共和国、……諸君は聖《サン》シェージュ王国というのを聞いた
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