た達が乗り込んで来たんだ、年寄りなんか、がっかり力を落して滅入っているんです。一体、あそこに飾ってあった賞牌《メダイユ》ってのは、コルテ市の射撃会で、部落の若いものがとった一等賞の記念。その当人にとっては、命から二番目という品。姫鱒は大将《カボラル》がグラヴオネの河で釣りあげた自慢のもの、それを、あんた、賞牌《メダイユ》はどっかへすててしまう。鱒は酢をかけて喰ってしまう。おまけにあの鳩は、村で急な病人ができたときに、コルテの町まで飛ばしてやる大切な伝書鳩だったんです。これは丸焼きにして喰ってしまうワ、年寄りの腎臓の薬にしていた黒山羊の乳は絞りあげてしまうワ、あんた達の乱暴はなみたいていじゃないんだから、日ごろ我慢強い大将《カボラル》もカンカンに怒《いか》って、あんた達のところへどなり込んでいったんだが、コニャックを出されたり、お礼をいわれたりするんで、かえってほうほうの体で引きさがって来たんです。そこで、威《おど》かしでもしたら立ちのくだろうってんで瘠《や》せた小僧に幽霊を一役やらせたところが、いきなり下から火をつけられてめんくらって逃げ出して来たんだが、こいつは膨《ふくら》っ脛《ぱぎ
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