ノンシャラン道中記
タラノ音頭 ――コルシカ島の巻――
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)筒《つつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三百|法《フラン》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)久生十蘭全集 6[#「6」はローマ数字、1−13−26]
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 一、虎は人を恐れ人は虎を恐る。ニースのランピヤ港を出帆したM・Q汽船会社の Bon Voyage 号は『三百|法《フラン》コルシカ島周遊』の粋士遊客を満載し、眠げなる波の夢を掻き乱しながら、シズシズと春の航海を続けてゆく。
 するとここに、上甲板の日よけの下に座を占め、ミシュラン会社の二十万分の一の地図の上に額を集め、しきりに論判する男女二人の若き東洋人があった。男子なる方は、派手なゴルフ服に黒の風呂敷包みを西行|背負《じょ》いにし、マザラン流の古風なる筒《つつ》眼鏡を小脇にかかえ大ナイフを腰につるし、女子なる方は乗馬服に登山靴、耳おおいのついた羅紗の防寒帽をかむり、消防
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