エラの岬を右に見て、パガナグリア山の裾《すそ》に纒繞《てんじょう》する九折《つづらおり》の道を、目まぐるしいほどの疾駆を続けてゆく。
コン吉は世界に名高きこのコルニッシュの勝景も眼に入らばこそ、広漠たる幸運の平野のまっただ中で、ただもう一|切《さい》夢中に逆上し、取り留めない空想の足踏みをするばかり。
「なにしろ、十|法《フラン》でやって一回勝てば三百五十法、百回で三万五千法か……うわア、とんでもないことになった。ア、スチャチャンのチャン……」と、昨夜《ゆうべ》からの計算を、また飽きもせず繰り返してはしゃぎ立てると、タヌはいまいましそうな顔で、
「君はずいぶんおたんちんね。十法なんてそんなまだるっこいことでどうするもんですか。いきなり千法で始めるのよ。突撃よ。つまり、日モナ戦争だわ。陸軍の比率は百対零よ。それに新兵器でしょう。(小僧や、ここへおいで!)よ、驚くもんですか」と、叱呼《しっこ》しながら、シャルムウズの袖をまくり、河童頭《かっぱあたま》を一振り振って勢い立ったる有様は、さながらシノンの野におけるジャンヌ・ダルクのごとく意気沖天の概《おもむき》があった。コン吉は膝を打って、
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