arc,on〕, Viens ici《ギャルソン・ヴィアン・イシイ》!(小僧や、ここへおいで!)と、こういうのです。この兎の足でもって三遍鼻の頭を撫でてから、なるたけ大きな声でこの呪文を唱えるのですヨ。論より証拠。一つやってみましょう」
 そこで一〇一号は、樺色の野兎の足で、うやうやしく鼻の頭を三度撫で、
「|〔Garc,on〕, Viens ici《ギャルソン・ヴィアン・イシイ》!」と、叫ぶと、不思議や模擬貨幣《ジュットン》は、まるで生き物のように、目にも見えない速さで卓《テーブル》の上から躍りあがり、待ち構えている一〇一号の掌《てのひら》の中へ飛び込んで来た。
「さ、両殿下も一つ実験して御覧じろ。模擬貨幣《ジュットン》に聞えるように、なるたけ大きなお声で。……よろしいですナ。模擬貨幣《ジュットン》をキチンと白鳥の眼玉の上へ置いて。……そうそう、その通りですヨ」
 六、大は小を兼ぬ粗布製の手提《てさげ》金庫。亡者を地獄へ送り込む火の車のように、めざましい焔色《ほのおいろ》に塗り立てたモンテ・カルロ行きの乗合自動車は、橄欖《かんらん》の林と竜舌蘭《りゅうぜつらん》と別荘を浮彫りにしてフ
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