詰《ブウダン》をほおばる天使長ガブリエル、泰然と大海老《オマア》を弄《せせ》る馬糞《ばふん》紙製の小豚、羮《スウプ》をふき出す青面黒衣の吸血鬼《ヴァンピール》、共喰いをする西洋独活《アスペルジュ》、呂律のまわらぬライン葡萄酒の大樽、支那茶を吸い込む象の首、――飲むさ喰うさの伴奏《あいのて》には、謝肉祭《キャルナヴァル》の山車《だし》の品定め、仮装行列の趣向の月旦、祭典競馬の優勝馬の予想、オペラ座にて催される大異装舞踏会《ヴェグリオーヌ》の仮装服《ドミノ》の相談、ヴェニス王女の御艶聞、イヴァン・モジュウヒンの御挨拶の前景気、と、いつ果てるともみえない鴉舌綺語《げきぜつきご》。さるにても、季節中の魅惑たる花合戦、花馬車競技も、もはや旬日の間に迫ったることとて、衆口|談柄《だんぺい》は期せずしてその品隙《とりざた》に移って行く。
 花馬車品評会とは謝肉祭《キャルナヴァル》中の大呼物、贅沢中の贅沢、粋と流行の親玉。名花珍草をもって軽軻《けいか》を飾るに趣向をもってし、新奇を競い、豪奢を誇り、わずか数時間のお馬車の遊行に、数万|法《フラン》をなげうって恬然《てんぜん》たるは常住茶飯事《まいどのこ
前へ 次へ
全34ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング