支払いを受ける。……百|法《フラン》の三十五倍で、つまり一挙にして三千五百法ですナ、どうです、負ければ引っ込ます。勝てば支払わせる。……百戦百勝、絶対に負けなし、というのがこの術です。アランベエル君出直して来い! でサ」
 コン吉は、もはや大乗り気。昂奮で狐面を赤らめながら、
「なるほど、これは絶対ですな。大勝利、大勝利」と、しきりにうなずくと、タヌも、
「まあたいした術ね。一目瞭然だわ」と、心からなる感嘆の声をあげる。
 一〇一号は、我が意を得たりというふうに、薄い唇をほころばせながら、
「お望みならご伝授申しますヨ。なにしろ私は安南《おくに》の王様にいろいろお世話になった。また、この方法も東洋で伝授されたものです。つまり、東洋に対する報恩の一端として、いさぎよく御伝授しましょう。無料ということが、両殿下の御気性として、御意にかないませんなら、金銭のお礼も申し受けましょう。ただし、額はきめません。両殿下の誠意、――換言すればですナ、そこに御所持の金額を全部、最後の五文《アンスウ》までここへ御提供くださいナ。その誠意さえお示し下さるなら、喜んで御伝授いたしますヨ。東洋のものを東洋へ返すのです。決してケチなことは申しませんヨ」
 タヌは息をはずませ、感謝の志を満面に表わしながら、
「ま、本当にご親切ですわ。……ええ、財布の底を払って誠意を示しますよ。では、早速ですけど、ここに三千|法《フラン》と、ほかに二十六法あってよ。さ、これで全部」と、机の上へ押しつけるように紙幣を並べる。
「コン吉、さ、あんたも皆出したまえ」
 コン吉は、
「おいきた」と、勇み立って、あちらこちらの衣嚢《かくし》から、五十法|紙幣《さつ》一枚、十法二枚、二法真鍮貨二つ、と、探し出しそれから日本の郵便切手を三枚景物に添えて机の上へ並べた。
 一〇一号は懐疑的な眼付で、じろじろ二人の様子を見ていたが、どうやら両人《ふたり》が、最後の五文《アンスウ》まで出し切った様子を見定めると、紙幣を財布へ納めてから、
「よろしい。では、始めます」と、いって模擬貨幣《ジュットン》を浮彫りの白鳥の眼玉の上に載せた。
「よろしいですか。この呪文は暹羅《シャム》語で、(アルス・ロンガ・ヴイタ・ヴレヴイス)というのですが、モナコの模擬貨幣《ジュットン》が暹《シャム》語を知ってるはずはありません。そこでこれを翻訳して、|〔G
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