作氏のそばには、ついこの夏、結婚したばかりの従姉《いとこ》の槇子《まきこ》が淑《しと》やかに寄り添い、そのとなりに、長六閣下の白い毬栗頭《どんぐりあたま》が見えている。
沼間《ぬま》夫人と森川夫人と従妹《いとこ》の麻耶子《まやこ》は、今夜の接待係りなので壁煖炉《シュミネ》のところにいるボクさんや久世《くぜ》氏、ご母堂と話をしている苗木売りのお爺さん、丹沢山《たんざわやま》の、あの四人の科学者たちに、さまざまなおもてなしをしている。
馬のほうは、もともと気のいいたちだから、こうして、みなの愉快そうなようすを眺めているだけで、充分、満足なのである。
この月の中ごろ、キャラコさんは、山本譲治《ジョージ・ヤマ》の法定代理人というひとの訪問を受けた。
かくべつ、面倒な話はすこしもなく、紐育《ニューヨーク》と巴里《パリー》と倫敦《ロンドン》と羅馬《ローマ》の銀行に別々に預けられてあった山本氏の財産が、外国の代理人の手でひとまとめにされ、正金銀行に全部|送達《エンヴォイ》されて来たことと、財産相続の届け出、相続税の納付、その他一切の法律上の手続きが、ちょうど昨日《きのう》で完了したことを報告
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