っているので、ちょうど、黒い大きい田鶴《たづる》でもそこに棲《とま》っているように見える。
部屋の右手の凹壁《アルコーヴ》になった大きな書棚の前には、ひと眼で混血児だとわかる美しい兄弟が、小さな円卓をはさんで、たいへん優雅なようすで向き合っている。
太い薪《まき》が威勢のいい焔《ほのお》をあげている壁煖炉《シュミネ》の前には、肩幅の広い、軍人のような立派な体格の中年の紳士が、しずかに煙草の煙りをふきあげてい、その隣りに、半ズボンの裾から、仔《こ》鹿のようなスラリとした脛《すね》をむきだした九つばかりの少年が、紳士の胸へ小さな身体をもたせかけるようにして、夢中になって何かしゃべっている。
入口に近い、南洋杉《アロオカリヤ》の鉢植えのそばの椅子には、恰幅のいい切下げ髪のご隠居さまと、ゴツゴツした手織り木綿の着物に、時代のついた斜子《ななこ》の黒紋付きの羽織りを着た、能面の翁《おきな》のような雅致《がち》のある顔つきの老人が、おだやかな口調でボツボツと話し合っている。
風もないのに、土壇《テラッス》で何かゴトゴトいう物音がきこえる。そのうちに、そこの細長いヴェニス窓が向うから押されて
前へ
次へ
全31ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング