ょう。ほんとうに、感心しましたわ」
 こんな棒切れのような長人参などを二人の前へさしだしたら、馬も老人も、軽蔑のあまり笑いだしてしまうことだろう。ひょっとしたら、屈辱《はじ》の感情のために、真っ赤になってしまうかも知れない。
 キャラコさんは、老人にも馬にも見えないように、後手で人参の束を地面へずりおとすと、靴の踵《かかと》でそっと溝《どぶ》の中へ押し落としてやった。
「……おじいさん、あなたのおっしゃるとおりですわ。……長人参を食べる馬なんか、ほんとうに、下等ね」



底本:「久生十蘭全集 7[#「7」はローマ数字、1−13−27]」三一書房
   1970(昭和45)年5月31日第1版第1刷発行
   1978(昭和53)年1月31日第1版第3刷発行
初出:「新青年」博文館
   1939(昭和14)年11月号
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年12月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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