ク、これで、まる三日もひとりきりでしたから」
おどろいて、あたしが、たずねました。
「ひとり、って、女中《ねえ》やさんもいないの?」
「ええ、誰れもいませんの。ボクひとり。……ママは女中《ねえ》やを置くのきらいなんです」
「ねえやさんもいないとしたら、あなた、御飯なんか、どうなさるの」
少年は、なんだそんなこと、というふうに、
「ママが、麺麭《パン》を置いてってくれますから、だいじょうぶ。……でも、ママ、時々ボクのことを忘れて、二日も三日も帰って来ないことがありますの。すると、ボク、とても困るの、お腹《なか》がすいて。……でも、もう、馴れているから平気です。そんな時は、動かないで、じっとしているの。こんなふうに、息をつめて……」
なるほど! たいしたもんですわね!
こういうのが欧羅巴《ヨーロッパ》ふうなんだと、自慢らしく公言してはばからないという、傍若夫人の奇抜な利己説《エゴイズム》は、世間では有名すぎて、もう古典になりかけているのだそうですが、なるほど、評判だけのことはあるようですわ! 子供には黴《かび》のはえた麺麭《パン》をあてがっておいて、じぶんは毎日遊び狂ってあるくとい
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