、とり立てて申しあげるほどのことでもない。……ただ、子供だけは、ああいう放縦な日常の中へ放って置くわけにはゆかないから、とりかえしたいと思って、さまざまにやって見たのですが、次々に隠し場所を変えるので、どうにも手がつけられないのです。……この間、ようやく東京にいることを突きとめて、ひとをやったのですが、どうしても出してくれない。……あれは、真澄を愛しているわけでなく、わたしに復讐するつもりで、ヤケになってやっているのですから、理窟でも法律でもおさえつけるわけにはゆかない。……わたしのほうも、そんな愚劣な感情に屈服する気はないのだから、いっそう話がむずかしくなってしまうのです。……人づてに聞いたところでは、真澄はわたしを軽蔑し、わたしにひどく反感を持っているらしい。わたしの、ちょっとした愚行を、利江が長い間かかって誇張《こちょう》して吹き込んだと見えて今まではわたしを憎んでさえいるそうです。……そうまでになった子供を、わたしの生活の中へ連れ込んで見たところで、果して、うまくゆくかどうかそれも疑問だと思うものですから、この間の交渉を最後にして、真澄を取り戻すことは断念しようと決心したのでし
前へ 次へ
全40ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング