菓子のようではないの」
 あたしは、この少年がかわいそうでたまらなくなって、やるせなくなって、思わず、大きな声で怒鳴ってしまいました。
「そんなことなら、わけはありませんわ、お坊ちゃん!」
「あなた、ごじぶんで、お菓子、おつくりになれますの?」
「ええ、どんなものでも!……なにがいいかしら?」
「ボクが、じぶんでつくれるような、やさしくて、美味《おい》しいもの」
「では、捏粉菓子《ブリオーシュ》がいいわ」
 少年は、椅子から躍《おど》りあがって、
「あの、捏粉菓子《ブリオーシュ》……、あの、ブリオーシュ……。こんなふうになって、…… 上にザラメのかかった?」
「ええ、そうよ!」
「ああ、思い出した! パパがいたとき、ボク、一度食べたことがある!」
「乾葡萄《ほしぶどう》もいれましょうね」
「ああ、乾葡萄まで!」
「よろしかったら、胡桃《くるみ》もいれましょう」
「それ、ボク、食べるのね!」
「ええ、そうよ、お坊ちゃん。あなたが召しあがるのよ」
「ああ、ボク、ボク……」
 少年は、もう、どうしていいかわからないといったふうに、長椅子の上をコロコロと転げ廻るのです。
「さあ、すぐ始めましょ
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