。
ミス・ダンドレーの共謀者は、江ノ島の江ノ島|楼《ろう》の二階から、ローリーさんが規定の一点を過ぎる時の浮揚度、潮流の抵抗、湾入の方向、毎日の潮流の速度の変化などを、速度計や、ストップウオッチや、磁石式羅針儀を使って綿密な研究をしていたのだそうだった。
ところで、ローリーさんのほうは、この研究には何の関係も持っていなかった。ミス・ダンドレーが、一と月の間、ヨットから岸まで泳ぐ勇気があるなら、あなたの求愛《プロポーズ》に応じましょうといったので、熱烈にそれを実行していただけのことだった。それにもかかわらず、ローリーさんも間もなく、日本から退去を命じられたということを、一ヵ月程のち、五人が聞いた。
鮎子さんが、ふうんと、いった。
「ローリーさんは、なかなか詩人だったんだね。見なおしたよ」
底本:「久生十蘭全集 7[#「7」はローマ数字、1−13−27]」三一書房
1970(昭和45)年5月31日第1版第1刷発行
1978(昭和53)年1月31日第1版第3刷発行
初出:「新青年」博文館
1939(昭和14)年9月号
※初出時の副題は、「海の青年隊」です。
※底
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