んよ。……じつはね、あたし、今日まで、やれるだけやってみたの」
 それから、もう一層声を低めて、
「ひょっとすると、ローリーさんは、たいへんなやつなのか知れないんだぞ!」

     四
 から騒ぎではなく、『赤い帆のヨット』とローリーさんの関係に見きわめをつけることが、五人の義務になってきた。
 いろいろな現象をとおして、できるだけ注意深く事実を観察すること。その結果を綜合し、これに結論を与えることは、こういうことに熟達した専門家に任せるほうがいいというキャラコさんの意見だった。
「芳衛さん、あなたが『お茶の会』へ出席して、ローリーさんを監視するようなことはよしたらどうかしら。そんな子供じみたことで、ローリーさんから何か探り出せるわけはないんだし、何より、傍観者の態度を捨てないことが、だいじだと思うんだけど……」
 芳衛さんは、もちろん、それに服従した。
 そのかわり、ツアイスの二百倍の望遠鏡でヨットとヨットの中の人間の動作を観察する役目が与えられた。
 それを記録する係りが、ピロちゃん。……トクべえさんは、ローリーさんがヨットから海へ飛び込む時間を正確に記録して、毎日の時刻の変化を
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