ろえ、れいの行礼歩調というやつで、岡から浜のほうへ降りて行く。ヒットラーの観兵式をニュース映画でごらんになったことがおありでしょう。……長靴をはいた兵隊さんが、膝の関節をまげずに、爪先でじぶんの額を蹴《け》あげるようにしながら行進する、あの奇抜な歩調で。
ところで、この示威運動《デモンストレーション》はあまり民衆の支持を得ない。四人の質実な精神は理解されないのである。低俗な民衆の眼には、どうも、すこし素頓狂《すっとんきょう》に見えるらしい。
砂浜で寝転んでいる赤銅《しゃくどう》色の青年たちが、気色を悪くして聞えよがしに叫ぶ。
「おうい、見ろみろ、また気狂いどもがやって来やがった。なんでェ、あの脚《あし》つきは。あいつら、頭の加減でも悪いんじゃないのか」
俗説に耳を藉《か》すな。そんなことでへこたれるには及ばない。新しい行動にはいつも迫害を伴うにきまっている。
キッと口を結んで、穴のあかんばかり、まっすぐに海を瞶めたまま、えらい混雑の中を神憑《かみがか》りのような足どりで波打ち際まで行進する。
そこで、お次ぎは団体精神の発動にうつる。
敵軍はいないか。向ってくるやつはいないか
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