、二組に分れて、夢中になってあがりっこをしている。
 手懸りはないし、ちょっと力を入れるとすぐ傾《かし》いでしまうので、なかなかうまく這いあがれない。
 骨を折って、ようやくの思いで攀《よ》じのぼると、筏《いかだ》の上は水に濡れてつるつるしているし、敵方がすぐ脚《あし》を引っぱりにくるので、わけもなく、またボチャンと水の中へ落ちてしまう。
 敵方は、海岸から馳《は》せ集まった混成軍。味方は、詩人の芳衛さん、絵の上手なトクべえさん、陽気なピロちゃん、男の子の鮎子さんの四人。日本女学園のやんちゃな連中で、片瀬《かたせ》の西方《にしかた》にある鮎子さんの別荘を根城《ねじろ》にして、朝から夕方まで、海豚《いるか》の子のように元気いっぱいに暴れまくる。
「わァい、万歳、万歳」
「眼玉やーい、河童の子。口惜《くや》しきゃ、ここまであがって来い」
 浮筏《ラドオ》の上から渚のほうを見ると、広い浜辺は、まるでアルプスのお花畑のようだ。
 赤と白の渦巻や、シトロン色や、臙脂《えんじ》の水玉や、緑と空色の張り交ぜや、さまざまな海岸日傘《ビーチ・パラソル》が、蕈《きのこ》のようにニョキニョキと頭をそろえてい
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