キャラコさん
海の刷画
久生十蘭

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)海底《うみぞこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二十|間《けん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#小書き片仮名ン、252−上−15]
−−

     一
 まだ十時ごろなので、水がきれいで、明るい海底《うみぞこ》の白い砂に波の動きがはっきり映る。その白い幻灯のなかで、小指の先ぐらいの小さな魚がピッピッとすばやく泳ぎ廻っている。
 硝子《ガラス》細工のような透明な芝蝦《しばえび》の子。気取り屋の巻貝《まきがい》。ゼンマイ仕掛けのやどかり。……波のうねりが来るたびに、みんないっしょくたになって、ゆらゆらと伸びたり縮んだりする。
「わァい、やって来たぞォ」
「やっつけろィ、沈めてしまえ」
「助けてえ、落ちる、落ちる」
 渚から二十|間《けん》ばかり沖へ、白ペンキ塗りの一|間《けん》四方ぐらいの真《ま》四角な浮筏《ラドオ》を押し出して、八人ばかりのお嬢さんたちが
次へ
全33ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング