って来ないうちに、早くやっつけろ!
べつのキャラコさんが、いやいや、をする。
――そんなふうに、コソコソやるのは、いや。
――コソコソでなければ、どんなふうにやるつもりだ?
――もっと、堂々とやる。
もう一人のキャラコさんが、とうとう癇癪をおこす。
――くだらないことをいうな。そんなことをいって、結局やらないつもりじゃないのか?
べつのキャラコさんが、情けない声を、だす。
――やるにはやるけれど、いま、気が乗らないから、いや。
――じゃ、いつになったら、やるつもりだ。
――御飯を食べてから。
せめて、母堂でもいてくれれば助かると思うのに、なかなか戻って来ない。何をしてるのかと思ってお勝手へ行って見ると、母堂は両肌脱《もろはだぬ》ぎになって、一生懸命に蕎麦《そば》を打っていた。
キャラコさんは、やるせなくなって、壁にもたれて眼をつぶった。
三
何ものも、母堂の上機嫌を損《そこな》うものがなかった。
いわんや、キャラコさんは、むやみに食べる。最後の一杯などは、もう、死んでもいいと思って、喉の奥へ送り込んだ。
あまりたくさん詰め込んだので、頭の奥のほ
前へ
次へ
全33ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング