キャラコさん
ぬすびと
久生十蘭

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)緋娑子《ひさこ》さん

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)(|しなびた花《フルウル・パッセ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#小書き片仮名ン、235−下−1]
−−

     一
 しばらくね、というかわりに、左手を気取ったようすで頬にあて、微笑しながら、黙って立っている。
 玄関で緋娑子《ひさこ》さんを見たとき、キャラコさんは、思わず、
「おや!」
 と、眼を見はった。
 わずか一年ばかり逢わずにいるうちに、すっかり垢《あか》抜けがしてまるで別なひとのようだった。
 がむしゃらで、野蛮で、喧嘩早くて、頬や襟あしに生毛《うぶげ》をモジャモジャさせながら、元気いっぱいに、しょっちゅう体操の教師などとやり合っていた『タフさん』。……これがこのひとだとはどうしても信じられない。
 袖の短い、ハイ・ネックのジャージイの服を無造作に着こなし、ハンドバッグのかわりに、れい
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