「あなたの重大には、もう驚くもんですか」
「ほんとうなのよ。とても重大なことなの。これから、すぐおうかがいしていい?」
「ええ、お待ちしててよ」
キャラコさんをアマンド氏の快遊船《ヨット》へひっぱって来たのはイヴォンヌさんである。
アマンドさんは非常な日本びいきで、趣味というよりは心酔《しんすい》というのに近いふうだった。
ヴァンクゥヴァの自分の家の庭に日本ふうの四阿《あずまや》をつくり、家じゅうを日本に関する書籍と骨董《こっとう》でいっぱいにして、たいていは日本の着物を着て暮らしている。
こんど日本へ遊びに来たのをさいわい、日本の近海に滞在するあいだ、ほんとうの意味の日本的なお嬢さんをひとり、ぜひ快遊船《ヨット》にご招待したいものだという希望をイヴォンヌさんのお父さんの山田氏にもらした。
山田氏やイヴォンヌさんが推薦するとなれば、それはもうキャラコさんにきまっている。
イヴォンヌさんが、のんきな顔で勧誘にやってきた。
「キャラコさん、十日ばかし快遊船《ヨット》のお客にいらっしゃらないこと? きっと、おもしろいことがあってよ。向うへは、もう行くことに返事してあるの。いら
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