とをしたら、無理にこの快遊船《ヨット》へ誘ったイヴォンヌさんや山田氏が不愉快な目にあわしたということで、あたしにすまない思いをするだろうし、アマンドさんだって、少なからず恐縮するにちがいないし……。)
それに、この快遊船《ヨット》の中で、じぶんだけがたった一人の日本人なので、いきおい、注目されたり、批評されたりしなくてはならない立場に置かれているのだと思うと、考えなしな行動はとりにくいのである。
キャラコさんは、あまりものごとに屈託しないたちだが、さすがに、うっとうしくなって、うんざりしてしまう。
「ベットオさんばかりじゃない、あたしだって、こんなうるさいことはまッぴらだわ。今度ぐらいつまらない目にあったことは、まだなかったわ」
丸い船窓から、水のような澄んだ月の光が斜めに床《ゆか》の上へさしこむ。
キャラコさんは、海風《うみかぜ》にでも吹かれたら、すこしさっぱりするかも知れないと思って、寝衣《ねまき》を脱いで、キチンと服に着かえると、イヴォンヌさんに気づかれないように、そっと甲板《ウエル》のほうへあがって行った。
みな船室へ引きとったと見えて、甲板《ウエル》には人影らしいも
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