尊いのだと思った。
「これだけやれば充分よ、勝ったもおなじことだわ」
夕食がすむと、山下氏が、率直に切り出した。
「いままで嘘をいっていたが、こんどもやはり駄目だった。この一年の間、われわれがどんなに努力したか、お互いによく知っているのだから、これ以上、しちくどくいう必要はないだろう。あす、山をおりて東京へ帰るつもりだが、われわれの仕事はこれで終わったというわけではない。鉱山のほうはうまくゆかなかったが、われわれの研究のなかで、この失敗をとりかえすことにしよう」
三枝氏は、鉱石のはいった採集袋を食卓のうえにおくと、
「この一年の記念のために、最後の鉱山《やま》の鉱石をひろってきた。われわれ四人の遺骨だ。数もちょうど四つある。ひとつずつだいて帰ろうや」
といった。
山下氏が、立ってきて、キャラコさんに挨拶した。
「あなたは、ほんとうに不思議なお嬢さんでした。どういう素性のかたなのか、……また、ほんとうの名前さえ知らずにお別れすることになりましたが、このほうが、たしかに印象的です。……最も心のやさしい女性の象徴として、いつまでも、われわれの心に残るでしょうから……」
あとの三人は
前へ
次へ
全59ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング