ってもいない方法で、感謝された。……かりに、神というものがあるならば、神様とは、なかなか油断のならない人格だね」
「おれも、そう思うよ。……あの二人さえ、怪我をしたことを、ちっとも情けながっていないんだからな。それどころか、たいへんなもうけものでもしたようにかんがえている」
「幸福《しあわせ》なやつらだ」
「正直なところ、おれも、足ぐらい折りたかった。あんなにしてもらえるなら」
「馬鹿なことをいうな」
「そういう君だって、あのひとに別れたくながっている」
「そんなわかりきったことを、口に出していうやつがあるか」
 三枝氏が、低い声で笑った。山下氏がつづいて、つぶやくような声でなにかいったが、それは渓流《せせらぎ》の音にけされてキャラコさんの耳にはとどかなかった。
 キャラコさんは、沈んだこころで小屋へ帰ってくると、入口の柱に背をもたせて長いあいだ立っていた。じぶんの沈んだ顔いろを原田氏や黒江氏に見られてはならないと思ったからである。落胆が激しかったので、こころをとりなおすのにだいぶ時間がかかった。
 納得のゆくまで充分考えたすえ、気を取りなおした。四人の剋苦の精神のほうが、金の何層倍も
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