《やき》をぬらしていた。
 キャラコさんは、戸口のすぐそばまで行って、そこで踏みとどまった。もういちどやってみようと決心したのである。じぶんの気持を相手に伝えることができないのは、しょせん、まごころがたりないためであろうから。
 元気よく廻れ右をすると、小屋のなかへもどってきて、四人のすぐまえで立ちどまった。
「……あまり突然でしたし、それに、私自身についてだって、なにひとつ申しあげていないのですから、気まぐれだと思われてもしようのないことですけど、でも、あたしがご一緒にここまでやってきたのは、決して、いい加減な考えからではなかったのです。……道みち、おひとりからいろいろうかがって、皆さまが、どんな目的で、どんな仕事をしていらっしゃるのか、よく承知することができました。……それから、食事の支度をする時間もないほどお忙しいということもよくよくわかりましたわ。……うかがいますと、この半年ばかりの間、ずっと簡便な方法で食事をすましていらしたのだそうですね。……仕事が大切だから、食事なんかのことで時間をつぶしていられないという考え方については、あたしにはあたしなりに別な意見がありますが、それは
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