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あたしは、いま、生まれてはじめといっていいくらい、つよく、感動しています。
ここまでくる途中で、四人の人と道連れになり、その人たちといっしょに、これから丹沢山の奥へ行くことに決心しました。
これから始められようとしているのは、たいへんに意義のあることで、あたしが、いくぶんでもそれに助力できることを、心から光栄に思うようなそんな、立派な仕事なのです。あたしのことはどうぞ、心配しないでちょうだい。
[#ここで字下げ終わり]

     三
 鉱山番《やまばん》が寝泊りしていたバラック建ての小屋は、あわれなようすで崖の上に立ち腐れていた。
 扉《ドア》などはとうのむかしになくなって、板敷きの床のあいだから草が萌《も》えだし、枠だけになった硝子《ガラス》窓を風が吹きぬけていた。
 小屋のなかへはいると、四人の一行はすぐ背嚢《ルックザック》をおろし、うす暗い蝋燭《ろうそく》の光をたよりに、探鉱や分析試験のこまごました器械を組み立てはじめた。
 この四人自身が、それぞれ精巧な器械のようなものだった。無言のままで、すこしの無駄もなくスラスラと仕事を片づけてゆく。
 キャラコさんは
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