一年間、研究室のレトルトや電離函から離れ、四人の努力で一つでも多くの廃棄金山を復活させようと申しあわせた。これが、自分たちの力でなしうるもっとも適切な仕事だと考えたからである。
この四人の若い学者たちは鉱山学にも深い知識をもっていたので、この仕事がどんなに困難なものか、最初からはっきりと知っていた。知識ではなく、不撓《ふとう》不屈の精神だけがこの仕事をなしとげさせるであろうということも。
四人は、日本中の廃棄金山の鉱床《こうしょう》を調べ、過去の鉱量を精密に計算して、もっとも有望だと思われる六つの鉱山を選び出すと、四月のある朝、腰に砕《さい》鉱用の鉄鎚《スレッチ》をはさみ、耳おおいのついた古びた眼出帽《めだしぼう》をかぶり、首にタオルを巻きつけ、小山のような背嚢《ルックザック》を背負って、まず北陸へ向って出発した。
この大きな背嚢《ルックザック》は、探鉱《プロスペクチング》と分析に必要な器械や薬品類だけが詰め込まれ、生活に必要なものはこっけいなほど無視されていた。――一枚の寝袋《スリーピング・バッグ》、共同の一つのコッフェル、フォークのついた五|徳《とく》ナイフ、コップが一つ。これで、全部だった。食べるためには米と味噌。そのほかに、蝋マッチひと包みだけはいっていた。
戦場の兵士と同じ労苦をあえてしようという素朴の感情のほかに、自分らの肉体に精密器械のような緻密性を課したのである。
廃鉱にたどりつくと、息をつく間もなく採鉱を開始する。
重力偏差計で鉱脈をさがし、傾斜儀《クリノメーター》や磁力計で鉱床の位置をきめ、『直り』を探り、露頭を削り、岩層を衝撃し、鉱石をくだき、※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《わん》掛し、樋《とい》で流し、ピペットで熱し、時計皿にかけ……、未明から夜なかまで、鉱夫のするはげしい労働から分析室の仕事までを、全部自分たちでやってのけた。
四人ともすっかりやせこけてしまい、顔のなかに、寄りつきがたいような辛辣《しんらつ》な表情が彫りこまれるようになった。
完膚《かんぷ》ないまでにひとつの鉱山をやっつけると、この切迫した表情と、いよいよ昂揚する精神をひっさげて、疾風のようにつぎの鉱山へ乗りこんでゆく。この労働にささげない一|分《ぷん》は、むだな一|分《ぷん》だというふうに。
こんなひどい苦労をつづけてきたが、いままでの五
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