しょうね」
「本当よ」
「誓うことができて?」
「ええ、誓ってもいいわ」
「そんなら、それでいいから、じゃ、もうこれっきり兄に逢わないようにしていただきますわ」
「あら、なぜでしょう」
 茜さんは、マジマジとキャラコさんの顔をみつめながら、吐きだすように、
「汚《けが》らわしいからよ、あんたのようなひと」
 そばへ寄ってもらいたくないというふうに、殊更《ことさら》らしいしぐさでとなりの幹に移ると、それに背をもたせながら、
「ご存知ないかもしれませんけれど、あたしの一族は純血《ピュウル・サン》なのよ。……だから、あんたのような、うしろぐらいところのある下等なひとはそばへ寄せつけないことにしてあるの。膚《はだ》がけがれますから。……どう、おわかりになって? これでもわからなければ、あんた、すこし馬鹿よ」
 キャラコさんは、思わず立ちあがった。が、すぐ自制した。
(……すこし、頭の工合が悪いのかも知れない。どうも常態《ノルマル》でないようだわ。こんな非常識なひとのいうことにムキになったりしたら、それこそ、こっちがやりきれないことになる。……それにしても、純血《ピュウル・サン》って、なんのこと
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