あまり甘やかしすぎたママの罪なのよ。……ママを撲《ぶ》ってちょうだい。……ママを撲《ぶ》ってちょうだい」
と、いいながら、頑是《がんぜ》ない子供のように泣き出した。
それから間もなく、キャラコさんがホテルへチャーミングさんを迎いに行った。
森川夫人は、広間の煖炉のそばで梓さんの愛人がやってくるのを待っていたが、おいおい、気が落着くにつれ、いま自分の娘に襲いかかっている危険がどんなひどいものか、だんだんはっきりして来た。
梓の話をいろいろ思い合わせると、感じやすい少女の心につけこむその男の、抜け目のない慇懃なやり方が、何もかもすっかりわかるような気がする。どう考えても、下劣な|女蕩し《セジュクトウル》のやり口だとしか思われない。もし、そうだったら、どんなことがあっても手をひかせなくてはならないと決心した。
一時間ほどすると、チャーミングさんが山小屋《ヒュッテ》へやって来た。顔色はいつもより蒼《あお》くなり、眼つきはいっそう沈んで、ひどい不幸にあったひとのようなようすをしていた。
キャラコさんの案内で広間へ入って来たチャーミングさんをひと眼見ると、森川夫人はたちまち蝋《ろう》
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