った。
「これ、飲みなちゃいね、温《あっ》たかくなるからさ」
夕食がすむと、思い立ったように、みなが大騒ぎをはじめた。おおげさなだけで、ちっとも活気がなかった。梓さんは、大きな眼をあけて、悲しそうにそれを眺めていた。
ユキ坊やと鮎子さんが、手をとり合っていそいで広間を出て行ったが、しばらくすると、二人とも眼を真っ赤にして帰ってきた。
キャラコさんは、梓さんを朝までしっかりと腕の中に抱いていた。
暁方《あけがた》になって、梓さんが、ひくい声で、ささやいた。
「ママに、来てくれるように、ゆうべ電報をうったの」
四
次の日の十時ごろ、森川夫人があわてて駆けつけて来た。昨夜《ゆうべ》、汽車の中ですこしも眠らなかったとみえて、ひどく膚《はだ》を荒していた。
山小屋《ヒュッテ》につくとすぐ、森川夫人がキャラコさんを二階の部屋へ呼んだ。
「キャラコさん、いったい、何があったの」
キャラコさんは、自分の知っているだけのことを率直につげた。
森川夫人は、むしろ、ほっとしたようなようすで、いった。
「そんなことだったの。……いやなひとね、そんなことで、あたしをこんなところまで呼びつけるなんて」
それでも、さすがに心配らしく、
「それで、どんなふうなの。あなた、きいてくだすって?」
キャラコさんは森川夫人の顔を見つめながら、こたえた。
「いいえ、なにも。……あたしがきいたって、どうにもしようのないことですから」
森川夫人は、すこし顔をあからめて、
「それはそうね。……では、梓を呼んでくださらない。あたしからよくきいてみますから。……よかったら、あなたもここにいてちょうだい。……二人っきりだと、かえって話しにくいかも知れませんから」
と、笑いながら、いった。
入って来た梓さんのようすを見ると、森川夫人の笑いはいっぺんにけしとんでしまった。
「梓さん、あなた、まあ、どうしたの。そんなに痩《や》せてしまって!」
梓さんは顔じゅうが眼ばかりになったような大きな眼で森川夫人の顔を見つめていたが、突然、気がちがったように、
「ママ!……ママ!……」
と、とほうもない大きな声で叫んだ。
森川夫人は、それだけで、もう、おろおろと取り乱し、
「梓《あっ》ちゃん、あなた、どうしたの、そんな大きな声をして。……ママに御用があるなら、いってみてちょうだい。もうすこし、しずかにね」
梓さんは、両手で森川夫人の手首をつかむと、ギュッと力いっぱいに握りしめながら、
「ママ! あたし、その方と結婚するお約束をしたのよ。反対したりしないでね!」
「まあ、困ったひとね。急にそんなことをいい出して。……あなた、ママにそんな話をするの、すこし、早すぎやしない?」
梓さんは、怒ったような顔つきになって、
「あたし、もう、子供じゃありません」
森川夫人は、ぎょっとしたようすで梓さんの顔を眺めていたが、救いを求めるような眼つきでキャラコさんのほうへふりかえった。
小さな時、脳をわずらったことのある気の毒な森川夫人は、こんな話になると頭の奥のほうがクラクラして、どうしていいかわからなくなってしまうのだった。
それにしても、梓さんはいったい何をいいだすつもりなんだろう。何かおそろしいことをぶちまけそうで、キャラコさんは、すこし恐《こわ》くなって来た。
森川夫人は、必死な微笑をうかべながら、
「そう、あなたはもう子供じゃないのね。……そんなら、どんなふうに、その方が好きになったか、ママに話せるわね」
梓さんは、まるで暗記でもするような、抑揚《よくよう》のない調子でいいだした。
「ええ、話せます。……その方はね、画の勉強をして、長い間たいへん奮闘したひとなの。いろんなつらい目にあっても、絶望せずにいっしょうけんめいにやり通したのよ。……そんな話をしていると、あまり悲しいことばかりで、その方は泣き出してあとをつづけることができなくなるの。そして、その気持をいろいろなたとえをひいてあたしに説明してくださるの。あたし、そのお話をきいていると、なんともいえないほど気持が沈んできて、急におとなになったような気がするんです」
「それで、あなたのほうでは、どんなお話をするの」
「あたし、まだ子供だから、あなたを慰めてあげることはできませんね、って」
「すると、その方は、どうおっしゃるの?」
「いいえ、あなたは、どんな大人よりもっと大人ですって、おっしゃるの。聡明でもなく、心もやさしくないひとは、いくつになっても子供とおなじなのですから、って。……だから、あなたがこうして私のそばにいてくださるだけで、ずいぶん元気が出るんです。ずっとずっと長くそばにいてくだすったら、もっともっと勇気が出るでしょう、って。……だから、あたし、その方と結婚することにしたの」
「あな
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