「そうね。そうだったわ……そんなこと、とっても、まずいんです。パパやママに、お前、すこし遅れているよって、よく言われるわ」
 そう言いながら、恥じるふうでもなく、おっとりと笑ってみせた。
 サト子は、こんな清潔な肌の色も、こんなによく澄んだ目の色も、生れてから、まだいちども見たことがなかったと思い、かねて夢想していた、この世の美しいものにはじめて出会ったような気がし、ひとりでに動悸がはやくなった。
 浅間な庭の植木棚のサボテンの鉢が、風に吹きまわされ、いまにも落ちそうに傾《か》しいでいるが、そんなものに眼をやる暇もない。このひとと、何時間も何時間も、こうして話していられたら、どんなに幸福だろうと思いながら、うっとりと暁子の顔をながめていると、暁子は退屈になったのだとみえて、
「どうして、だまっていらっしゃるの。暁子、お話ししちゃ、いけないかしら」
 と、つぶやくように言った。
 サト子はヘドモドしながら、
「そのお召、あまりいい色目なので、見とれていたんです」
 暁子は、お辞儀をするようなコナシで、
「おほめをいただきまして、ありがとうございます……でも、すこし、子供っぽいとお思い
前へ 次へ
全278ページ中205ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング