体を倒して、
「巻枠は、折をみて巻き戻します……勘づかれるから、マイクのはいった花瓶を見つめないようにしてください」
 と、ささやいたが、由良には、よく聞きとれなかったらしい。え? え? と聞きかえしているうちに、坂田省吾は二人のいるテーブルへやってきて、やあ、と無造作に頭をさげた。
「いつぞやは、熱海で……」
「わたくしどもこそ」
 由良は、大ホステスの風格で、椅子に掛けたまま鷹揚《おうよう》にあいさつをかえすと、子供の手首のようにくびれた二重のあごを、芳夫のほうへしゃくった。
「この間、熱海ホテルでお会いになった山岸弁護士の長男の芳夫さん……口髭なんか生やしていますが、これでまだ二十五なの。大学の法科を出て、いまお父さんの事務所で働いていられるんです」
 トックリ・セーターにジャンパーをひっかけ、アメリカものらしい、バカげて底の厚いドタ靴をはいた坂田のようすを、芳夫は髭を撫でながら観察していたが、こいつを怒らしてみたいとでもいうように、椅子から立って、悪丁寧なお辞儀をした。
「あなたが坂田さんですか。いちど、お目にかかりたいと思っておりました。私は、シアトルの有江さんの代理です……
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