チンピラなら、ここにもひとり居るって……あなたたち、相手にもしなかったじゃ、ありませんか」
 もう一人の警官が息巻いた。
「だいたい君は、ひとをバカにしているよ」
 サト子は、笑いながら、言った。
「あなた、なにを怒っているんです?」
「空巣を庇うなんてことが、あるか、てんだ」
「失礼ですけど、庇ったりしたおぼえはないわ」
「あの男は、生垣を乗りこえてはいって来た。君は怪しいとも思わなかったのか」
「そこのところが、ちょっと、ちがうの。あのひとは垣根を乗りこえたりしませんでした。おはいりなさいって誘ったのは、あたしだったのよ」
「なんのために?」
「おとなりの方だと思ったからよ。おかしなことなんか、なにもないでしょ?」
 若い警官は横をむいて、聞えよがしにつぶやいた。
「これはまア、おっそろしく気の強いお嬢さんだ」
 サト子は負けずに、やりかえした。
「そうだと思って、ちょうだい」
 中年の刑事は、なだめるように言った。
「なにかにとおっしゃるが、正直なところ、いくらかはあの男を庇う気があったんだね? この方はとたずねたら、あなたは返事をしなかった」
「ボーイ・フレンドだろうなんて、失
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