な顔で担《かつ》ぎこんでくるなんて、頭の程度が知れるわね」
「それは、考えすぎです。この家は、バイヤーたちの商談の場なので、こんなキカイを用意しておいて、お求めに応じるようになっているんです……すこし、便利すぎるようだが」
「トロくさい……第三弁護士会の会長といえば、抜目のない代表みたいなもんだと、聞いていたけど、こんなタワケたものを……」
「これは、私の思いつきでも、おやじの発明でもありません。たとえば、チューインガムね……食べものにゴムを使うことを考えたように、タンゲイすべからざる契約前の商談に、テープ・レコーダーを利用することを思いついた。これは、アメリカ人の斬新性というやつです……ドタン場になると、とかく逃口上を言ったり、嘘をついたりする日本の商人を相手にするには、こういう方法で言質をとっておくにかぎると、アメ公のバイヤーたちが言っております」
 由良は耳も藉《か》さずに、
「目ざわりだから、あっちへやってちょうだい。なにをするにしても、もうすこし、まじめにやっていただきたいわ」
「そうはおっしゃるが、これは、おやじの霊感の泉なんです……世間が寝しずまったころ、寝床へはいって、
前へ 次へ
全278ページ中138ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング