ばへ戻ってきた。
「立ちなよ。椅子、片付けるんだからさ」
「ここはダンナサマの席だといったでしょ。あたし動かないわ」
「あんたにまでゴテられちゃ、困るわ」
「わからないって、きめてかかっているけど、話にも、話しかたにも、よるでしょう? あたし、会って話してみるわ」
シヅは殺気だった喧嘩のかまえになって、部屋のなかを歩きまわりながら、カスレたような声でつぶやいた。
「話では、すまないことなんだよ……あいつらが集めていた赤札(軍票ドル)を、青札(本国ドル)と換えてやったら、それがガン札だなんて、ムチャな言いがかりをつけるんだから……」
正面玄関《フロント》の扉があくたびに鳴るブザーが、ほのかな音をつたえた。シヅは窓のほうへ行って、小田原町につづく通りを見おろしながら、
「神奈川県の自動車が、二台、いる……塀の前と、むこうの河岸っぷちに……八人は、いるな。骨が折れるよ……サト子さん、早く出て行って……あんたなんかにマゴマゴされると、負けちゃうじゃないのさ」
そんなことをいっているうちに、もう、廊下に靴音がきこえた。
「おシヅちゃん、来たわ」
ドアの前で、靴音がとまった。なかのけはいを聞きすましているふうだったが、そのうちに、ドスドスと乱暴にドアを蹴りつけた。シヅは、そっと戸口のほうへ行って、頃合《ころあい》をはかりながら、だしぬけにドアをあけた。
なりわいの渋味も辛味も味わいつくした、ひと目でショウバイニンと知れる、若いような老けたような女が二人、不意をくって部屋のなかへよろけこんでくると、たがいの様子がおかしいというので、男のような声でゲラゲラ笑った。
どちらも、裾まである赤鉛筆色《レッド・レッド》のコートを着ている。それを脱げば、下は喧嘩の身支度になっていることは、胸あきからトックリ・スェーターの衿が見えているのでもわかる。いい加減に笑って、笑いおさめると、目のキョロリとした、ムジナのおばあさんのような顔をした女が、
「なにさ、ひとの鼻先で、いきなりドアをあけたりして……むかしの仲間だ。もうすこし、やさしく扱ってくれよ」
もうひとりの、ずんぐりむっくりの猪首《いくび》の女は、戸口に立ちはだかって、部屋のなかを見まわしながら、
「ここは、いぜん、おれの巣だった部屋だぜ。やはり、器用に足は洗えないもんだとみえるな……モデルは看板で、ジャッキーをくわえこむのが
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