三一三 應に作すべきものは是を爲せ、勇健に此を行へ、疎漫なる外道は寧ろ多く塵を揚ぐ。
三一四 惡行は爲さざるを可とす、惡行は後に惱を招く、善行は爲さるゝを可とす、爲して後悔なし。
三一五 邊境の城は内外倶に守るが如く己を護れ、須臾も忽にすべからず。
三一六 邪見を懷き、羞づべからざるを羞ぢ、羞づべきに羞ぢざる有情は惡趣に生る。
三一七 邪見を懷き、畏るべからざるに畏を見、又畏るべきに畏を見ざる有情は惡趣に生る。
三一八 邪見を懷き、避くべからざるに避くべしと謂ひ、又避くべきを避くべからずと見る有情は惡趣に生る。
三一九 生見を懷き、避くべきを避くべきと知り、又避くべからざるを避くべからずと知る有情は善趣に生る。
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第二十三 象の部
三二〇 象が戰場に於て弓より離れたる箭を忍ぶが如く、我は(人の)誹謗を忍ばん、多くの人は破戒者なれば。
三二一 調《をさ》められたる(象は人是を)戰場に導き、調められたる(象)は王の乘る所となる。能く(自ら)調めて誹謗を忍ぶは人中の最上なり。
三二二 調められたる騾も好し、信度産の良馬も良し、大牙を有せる象も好し、己を調めたる人は更に好し。
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信度―インダス河のこと、此の地方より良馬を産すと云ふ。
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三二三 此等の獸類に由りては決して未到の處に到るを得じ、唯調めたる人が(己を)調め、善く己を調めてのみ往くべし。
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未到の處―涅槃を指す。
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三二四 陀那波羅柯と名づくる象は醉狂して制し難く、此を縛すれば食せず、(此の)象は(唯)象の林を顧念す。
三二五 睡眠を好み、饕餮に、心昧劣にして、展轉して寢ね、穀類に肥えたる大豚の如き暗鈍者は數《しば》しば胞胎に入る。
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饕餮《たうてつ》―貪り食ふこと。
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三二六 此の心は前には好む所に行けり、欲に隨つて、樂に應じて、(されど)今は我、此を全く制御せん、鉤を執る人が醉象を(制御するが)如くに。
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醉象―象は交尾期に至れば躁暴となり宛も醉狂せるが如し、故に此の時期に於ける象を醉象と名づく。
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三二七 汝等不放逸を樂め、自心を護れ、難處より己を救へ、淤泥に溺れたる象の如くに。
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難處―煩惱の離れ難きを喩ふ。
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三二八 人若し賢善にして行を同じくし、正しくふるまひ、堅固なる友を得ば、諸の險難を侵して歡こんで正念に彼と倶に行くべし。
三二九 人若し賢善にして行を同じくし、正しくふるまひ、堅固なる友を得ずんば、王が亡ぼされたる國を棄つるが如く、獨り行くべし、林中の象の如く。
三三〇 寧ろ獨り行くを善しとす、愚者と侶なる勿れ、獨り行きて惡を爲さざれ、少欲にして、林中の象の如く。
三三一 友は事の起るとき樂なり、滿足は總て樂なり、福は生の盡るとき樂なり、一切苦の斷滅は樂なり。
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事の起るとき―友は福あれば助けて此を求め、禍あれば助けて此を避くるを以てなり。
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三三二 世に母性あるは樂なり、父性あるも亦樂なり、世に沙門の性あるは樂なり、婆羅門の性あるも亦樂なり。
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母性―「母と云ふもの」の義。
父性―「父と云ふもの」の義。
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三三三 戒を持して老に至るは樂なり、信の堅く立つは樂なり、慧を得るは樂なり、諸惡不作は樂なり。
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第二十四 愛欲の部
三三四 放逸なる人の愛欲は摩魯婆の如く滋茂す、彼は有より有に漂ふ、林中に果を求むる猴の如し。
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摩魯婆―蔓草の名。
有―變化的生存。
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三三五 世に於て猛利なる愛欲に伏せらるゝ人は諸の憂患盛に増長す、茂れる毘羅拏草の如し。
三三六 人あり世に於て此の猛利にして脱れ難き愛欲を能く伏すれば憂患彼を去る、水の滴りが荷葉より(落るが)如し。
三三七 是に由て我汝等に誨ゆ、此處に來會せる者は悉く愛欲の根を掘れ、優尸羅を求むる人は毘羅拏草を(掘るが如く)、以て流れが葦を(穿つが)如く魔羅をして數しば汝等を壞《やぶ》らざらしめよ。
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優尸羅―香菜と譯す。冷藥の名。
摩羅―煩惱、蘊、(因縁積集して成れるもの)死の魔を指す。
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三三八 根侵されずして堅固なれば樹は截らると雖も復た長ずるが如く、是の如く愛欲隨眠壞られざれば、此の(生死の)苦復た起る。
三三九 若し人に可意の物に於て漏泄する強き三十六駛流あれば、貪愛より發する分別の浪は其の惡見者を漂蕩す。
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