れ)賢なりと想ふ人こそ實に愚と謂《い》はる。
六四 愚者は終生賢人に近づくも正法を知らず、匙の汁味を(知らざる)如し。
六五 智者は瞬時賢人に近づくと雖も速に正法を知る、舌の汁味を(知る)如し。
六六 愚癡無智の凡夫は己《おのれ》に對して仇敵の如くふるまひ、惡業を作して苦痛の果を得。
六七 造り已《をは》りて後悔し、顏に涙を流し、泣きて其果報を受くべき業は、善く作られたるに非ず。
六八 造り已りて後悔せず、死して後悦こびて其果報を受くべき業は、善く作られたるなり。
六九 罪過の未だ熟せざる間は愚者は以て蜜の如しと爲す。罪過の正に熟する時に至りて(愚者は)苦惱す。
七〇 愚者は日々茅草の端を以て飮食するあらんも、彼は法を思擇せる人の十六分の一に及ばず。
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茅草の端を以て飮食する―苦行者の如く飮食を節減するを言ふ。
思擇―知り判けること。
十六分の一―一小部分。
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七一 造られたる惡業は猶ほ新たに搾れる牛乳の如し、(即時に)熟し了はらず、隨逐して愚者を惱ます、猶ほ灰に覆はれたる火の如し。
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灰に覆はれたる火―熱氣容易に去らず、業力の執拗なるに喩ふ。
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七二 (他を)損害せんとする思慮が愚者に生ずる間は、(其思慮は)愚者の白分を亡ぼし彼の頭を斷つ。
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白分―所謂美點。
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七三 虚しき尊敬を望む人多し、比丘衆の中にては先にせられんことを(望み)、住處の中には主權を(望み)、他家の中には供養せられんことを(望む)。
七四 在家も亦出家も「此れ正に我が與《ため》に造られたり」と謂《おも》ひ、「諸の所作と非所作の中に於ける何事も實に我が隨意たるべし」と謂《おも》へる人あり、此れ愚者の思量する所、(斯くして彼愚者の)欲望と高慢と増長す。
七五 一は利養の道、一は涅槃の道、斯く通達する佛陀の弟子なる比丘は、名聞を好むべからず、益々遠離に住すべし。
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第六 賢哲の部
七六 伏藏を告ぐる人の如く、(人に)避くべきことを示し、訓誡する聰慧者に遭ふときは此の賢人に侶となれ、斯かる人を侶とするときは勝利ありて罪過なし。
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伏藏―寶の埋沒してある處。
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七七 教授せよ教誡せよ、不應爲の事を避けよ、彼は善人の愛する所にして不善人の愛せざる所なり。
七八 惡友に伴なはざれ、下劣の人を侶とせざれ、善友に伴なへ、上士を侶とせよ。
七九 法(水)を飮める者は快よく眠り、心淨く、(斯かる)賢人は常に聖所説の法を樂しむ。
八〇 疏水師は水を導びき、矢人《やつくり》は箭を調へ、木工は木を調へ、智者は己を調ふ。
八一 磐石は風に搖がざるが如く、賢人は毀《そし》りと譽れの中に於て動かず。
八二 深き淵は澄みて靜なるが如く、智者は道を聞きて安泰なり。
八三 善士は一切を棄て、欲を貪らず、愁嘆せず、樂に會うても又苦に會うても汲々たらず又戚々たらず。
八四 (善士は)己の爲にも亦他の爲にも、子孫を希はざれ、財も、又土地も、不法に由りて己の繁榮を希はざれ、彼は善く聰く正しくあれ。
八五 多くの人の中に於て少數の人あり彼岸に達す、餘の人は此方の岸の上に彷徨す。
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彼岸―涅槃。
此方の岸―輪廻界。
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八六 正しく説かれたる法あるとき其法を遵行する人のみ彼岸に到る、死の境域は越ゆること甚だ難し。
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死の境域―輪廻の郷。
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八七 智者は黒法を離れて白(法)を修すべし、在家より非家に趣き、悦び難き孤獨を
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黒・白―次頌の如く惡・善の異名。
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八八 樂ふべし、智者は諸の欲を去り、一物をも所有せず、己を淨めて諸の煩惱を除くべし。
八九 心は正しき菩提《さとり》の要素を正しく修習し、執著無く、執著を棄つることを樂しみ、心の穢を盡し、知見を具する人は、現世に於て(已《すで》に)涅槃に入れるなり。
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第七 阿羅漢の部
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阿羅漢―應供と譯す、人の尊敬を受くべき資格ある義、又は殺賊の義、煩惱の賊を已に殺したるを云ふ。
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九〇 經べき途を已に過ぎ、憂を除き、一切に於て解脱し、一切の縛を斷てる人には苦惱あることなし。
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經べき道―有爲の輪廻を指す。
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九一 彼等は精勤し、熟慮して住宅を喜ばず、鵝の小池を棄つるが如く、彼等はあらゆる住處を棄つ。
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