せう》しながら行《い》つたり、知人《しりびと》に遇《あ》ひでもすると、青《あを》くなり、赤《あか》くなりして、那麼《あんな》弱者共《よわいものども》を殺《ころ》すなどと、是程《これほど》憎《にく》むべき罪惡《ざいあく》は無《な》いなど、云《い》つてゐる。が、其《そ》れも此《こ》れも直《ぢき》に彼《かれ》を疲勞《つか》らして了《しま》ふ。彼《かれ》は乃《そこで》ふと[#「ふと」に傍点]思《おも》ひ着《つ》いた、自分《じぶん》の位置《ゐち》の安全《あんぜん》を計《はか》るには、女主人《をんなあるじ》の穴藏《あなぐら》に隱《かく》れてゐるのが上策《じやうさく》と。而《さう》して彼《かれ》は一|日中《にちゞゆう》、又《また》一晩中《ひとばんぢゆう》、穴藏《あなぐら》の中《なか》に立盡《たちつく》し、其翌日《そのよくじつ》も猶且《やはり》出《で》ぬ。で、身體《からだ》が甚《ひど》く凍《こゞ》えて了《しま》つたので、詮方《せんかた》なく、夕方《ゆふがた》になるのを待《ま》つて、こツそり[#「こツそり」に傍点]と自分《じぶん》の室《へや》には忍《しの》び出《で》て來《き》たものゝ、夜明《よあけ》まで身動《みうごき》もせず、室《へや》の眞中《まんなか》に立《た》つてゐた。すると明方《あけがた》、未《ま》だ日《ひ》の出《で》ぬ中《うち》、女主人《をんなあるじ》の方《はう》へ暖爐造《だんろつくり》の職人《しよくにん》が來《き》た。イワン、デミトリチは彼等《かれら》が厨房《くりや》の暖爐《だんろ》を直《なほ》しに來《き》たのであるのは知《し》つてゐたのであるが、急《きふ》に何《なん》だか然《さ》うでは無《な》いやうに思《おも》はれて來《き》て、是《これ》は屹度《きつと》警官《けいくわん》が故《わざ》と暖爐職人《だんろしよくにん》の風體《ふうてい》をして來《き》たのであらうと、心《こゝろ》は不覺《そゞろ》、氣《き》は動顛《どうてん》して、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]卒《いきなり》、室《へや》を飛出《とびだ》したが、帽《ばう》も被《かぶ》らず、フロツクコートも着《き》ずに、恐怖《おそれ》に驅《か》られたまゝ、大通《おほどほり》を眞《ま》一|文字《もんじ》に走《はし》るのであつた。一|匹《ぴき》の犬《いぬ》は吠《ほ》えながら彼《かれ》を追《お》ふ。後《うしろ》の方《はう》では農夫
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