の状態《じやうたい》にては、最《もつと》も有《あ》り有《う》べき事《こと》なので、總《そう》じて他人《たにん》の艱難《かんなん》に對《たい》しては、事務上《じむじやう》、職務上《しよくむじやう》の關係《くわんけい》を有《も》つてゐる人々《ひと/″\》、例《たと》へば裁判官《さいばんくわん》、警官《けいくわん》、醫師《いし》、とかと云《い》ふものは、年月《ねんげつ》の經過《けいくわ》すると共《とも》に、習慣《しふくわん》に依《よ》つて遂《つひ》には其相手《そのあいて》の被告《ひこく》、或《あるひ》は患者《くわんじや》に對《たい》して、單《たん》に形式以上《けいしきいじやう》の關係《くわんけい》を有《も》たぬやうに望《のぞ》んでも出來《でき》ぬやうに、此《こ》の習慣《しふくわん》と云《い》ふ奴《やつ》がさせて了《しま》ふ、早《はや》く言《い》へば彼等《かれら》は恰《あだか》も、庭《には》に立《た》つて羊《ひつじ》や、牛《うし》を屠《ほふ》り、其《そ》の血《ち》には氣《き》が着《つ》かぬ所《ところ》の劣等《れつとう》の人間《にんげん》と少《すこ》しも選《えら》ぶ所《ところ》は無《な》いのだ。
翌朝《よくあさ》イワン、デミトリチは額《ひたひ》に冷汗《ひやあせ》をびつしより[#「びつしより」に傍点]と掻《か》いて、床《とこ》から吃驚《びつくり》して跳起《はねおき》た。もう今《いま》にも自分《じぶん》が捕縛《ほばく》されると思《おも》はれて。而《さう》して自《みづか》ら又《また》深《ふか》く考《かんが》へた。恁《か》くまでも昨日《きのふ》の奇《く》しき懊惱《なやみ》が自分《じぶん》から離《はな》れぬとして見《み》れば、何《なに》か譯《わけ》があるのである、さなくて此《こ》の忌《いま》はしい考《かんがへ》が這麼《こんな》に執念《しふね》く自分《じぶん》に着纒《つきまと》ふてゐる譯《わけ》は無《な》いと。
『や、巡査《じゆんさ》が徐々《そろ/\》と窓《まど》の傍《そば》を通《とほ》つて行《い》つた、怪《あや》しいぞ、やゝ、又《また》誰《たれ》か二人《ふたり》家《うち》の前《まへ》に立留《たちとゞま》つてゐる、何故《なぜ》默《だま》つてゐるのだらうか?』
是《これ》よりしてイワン、デミトリチは日夜《にちや》を唯《たゞ》煩悶《はんもん》に明《あか》し續《つゞ》ける、窓《まど》の傍《
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