#「ごたくさ」に傍点]と、山《やま》のやうに積《つ》み重《かさ》ねられて、惡臭《あくしう》を放《はな》つてゐる。
此《こ》の積上《つみあ》げられたる雜具《がらくた》の上《うへ》に、毎《いつ》でも烟管《きせる》を噛《くは》へて寐辷《ねそべ》つてゐるのは、年《とし》を取《と》つた兵隊上《へいたいあが》りの、色《いろ》の褪《さ》めた徽章《きしやう》の附《つ》いてる軍服《ぐんぷく》を始終《ふだん》着《き》てゐるニキタと云《い》ふ小使《こづかひ》。眼《め》に掩《おほ》ひ被《かぶ》さつてる眉《まゆ》は山羊《やぎ》のやうで、赤《あか》い鼻《はな》の佛頂面《ぶつちやうづら》、脊《せ》は高《たか》くはないが瘠《や》せて節塊立《ふしくれだ》つて、何處《どこ》にか恁《か》う一|癖《くせ》ありさうな男《をとこ》。彼《かれ》は極《きは》めて頑《かたくな》で、何《なに》よりも秩序《ちつじよ》と云《い》ふことを大切《たいせつ》に思《おも》つてゐて、自分《じぶん》の職務《しよくむ》を遣《や》り終《おほ》せるには、何《なん》でも其鐵拳《そのてつけん》を以《もつ》て、相手《あいて》の顏《かほ》だらうが、頭《あたま》だらうが、胸《むね》だらうが、手當放題《てあたりはうだい》に毆打《なぐ》らなければならぬものと信《しん》じてゐる、所謂《いはゆる》思慮《しりよ》の廻《ま》はらぬ人間《にんげん》。
玄關《げんくわん》の先《さき》は此《こ》の別室全體《べつしつぜんたい》を占《し》めてゐる廣《ひろ》い間《ま》、是《これ》が六|號室《がうしつ》である。淺黄色《あさぎいろ》のペンキ塗《ぬり》の壁《かべ》は汚《よご》れて、天井《てんじやう》は燻《くすぶ》つてゐる。冬《ふゆ》に暖爐《だんろ》が烟《けぶ》つて炭氣《たんき》に罩《こ》められたものと見《み》える。窓《まど》は内側《うちがは》から見惡《みにく》く鐵格子《てつがうし》を嵌《は》められ、床《ゆか》は白《しろ》ちやけて、そゝくれ立《だ》つてゐる。漬《つ》けた玉菜《たまな》や、ランプの燻《いぶり》や、南京蟲《なんきんむし》や、アンモニヤの臭《にほひ》が混《こん》じて、入《はひ》つた初《はじ》めの一|分時《ぷんじ》は、動物園《どうぶつゑん》にでも行《い》つたかのやうな感覺《かんかく》を惹起《ひきおこ》すので。
室内《しつない》には螺旋《ねぢ》で床《ゆか》に止《と》め
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