行《りよかう》にと出掛《でか》けたのである。
空《そら》は爽《さはやか》に晴《は》れて、遠《とほ》く木立《こだち》の空《そら》に接《せつ》する邊《あたり》も見渡《みわた》される涼《すゞ》しい日和《ひより》。ステーシヨン迄《まで》の二百ヴエルスタの道《みち》を二|晝夜《ちうや》で過《す》ぎたが、其間《そのあひだ》馬《うま》の繼場々々《つぎば/\》で、ミハイル、アウエリヤヌヰチは、やれ、茶《ちや》の杯《こつぷ》の洗《あら》ひやうが奈何《どう》だとか、馬《うま》を附《つ》けるのに手間《てま》が取《と》れるとかと力《りき》んで、上句《あげく》には、何《いつ》も默《だま》れとか、彼《か》れ此《こ》れ云《い》ふな、とかと眞赤《まつか》になつて騷《さわぎ》を返《かへ》す。道々《みち/\》も一|分《ぷん》の絶間《たえま》もなく喋《しやべ》り續《つゞ》けて、カフカズ、ポーランドを旅行《りよかう》したことなどを話《はなし》す。而《さう》して大聲《おほごゑ》で眼《め》を剥出《むきだ》し、夢中《むちゆう》になつてドクトルの顏《かほ》へはふツ/\と息《いき》を吐掛《ふつか》ける、耳許《みゝもと》で高笑《たかわらひ》する。ドクトルは其《そ》れが爲《ため》に考《かんがへ》に耽《ふけ》ることもならず、思《おもひ》に沈《しづ》む事《こと》も出來《でき》ぬ。
汽車《きしや》は經濟《けいざい》の爲《ため》に三|等《とう》で、喫烟《きつえん》を爲《せ》ぬ客車《かくしや》で行《い》つた。車室《しやしつ》の中《うち》はさのみ不潔《ふけつ》の人間計《にんげんばか》りではなかつたが、ミハイル、アウエリヤヌヰチは直《すぐ》に人々《ひと/″\》と懇意《こんい》になつて誰《たれ》にでも話《はなし》を仕掛《しか》け、腰掛《こしかけ》から腰掛《こしかけ》へ廻《まは》り歩《ある》いて、大聲《おほごゑ》で、這麼不都合《こんなふつがふ》極《きはま》る汽車《きしや》は無《な》いとか、皆《みな》盜人《ぬすびと》のやうな奴等計《やつらばか》りだとか、乘馬《じようば》で行《ゆ》けば一|日《にち》に百ヴエルスタも飛《と》ばせて、其上《そのうへ》愉快《ゆくわい》に感《かん》じられるとか、我々《われ/\》の地方《ちはう》の不作《ふさく》なのはピン沼《ぬま》などを枯《から》して了《しま》つたからだ、非常《ひじやう》な亂暴《らんばう》をしたも
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