になつたら如何《いかゞ》です。』
と、市役所員《しやくしよゐん》は活發《くわつぱつ》に云《い》ふ。
『私《わたくし》は前《さき》にも申上《まをしあげ》ました通《とほ》り、醫學上《いがくじやう》の事務《じむ》を地方自治體《ちはうじちたい》の方《はう》へ、お渡《わた》しになつては如何《どう》でせう?』
『地方自治《ちはうじち》に錢《ぜに》を渡《わた》したら、其《そ》れこそ彼等《かれら》は皆《みな》盜《ぬす》んで了《しま》ひませう。』と、ブロンヂンのドクトルは笑《わら》ひ出《だ》す。
『其《そ》りや極《きま》つてます。』と、市役所員《しやくしよゐん》も同意《どうい》して笑《わら》ふ。
院長《ゐんちやう》は茫然《ぼんやり》とブロンヂンのドクトルを見《み》たが。『然《しか》し公平《こうへい》に考《かんが》へなければなりません。』と云《い》ふた。
皆《みな》は又《また》少時《しばし》默《もく》して了《しま》ふ。其中《そのうち》に茶《ちや》が出《で》る。ドクトル、ハヾトフは皆《みな》との一|般《ぱん》の話《はなし》の中《うち》も、院長《ゐんちやう》の言《ことば》に注意《ちゆうい》をして聞《き》いてゐたが突然《だしぬけ》に。『アンドレイ、エヒミチ今日《けふ》は何日《なんにち》です?』其《それ》から續《つゞ》いて、ハヾトフとブロンヂンのドクトルとは下手《へた》なのを感《かん》じてゐる試驗官《しけんくわん》と云《い》つたやうな調子《てうし》で、今日《けふ》は何曜日《なにえうび》だとか、一|年《ねん》の中《うち》には何日《なんにち》有《あ》るとか、六|號室《がうしつ》には面白《おもしろ》い豫言者《よげんしや》がゐるさうなとかと、交々《かはる/″\》尋問《たづ》ねるので有《あ》つた。
院長《ゐんちやう》は終《をはり》の問《とひ》には赤面《せきめん》して。『いや、那《あれ》は病人《びやうにん》です、然《しか》し面白《おもしろ》い若者《わかもの》で。』と答《こた》へた。
もう誰《たれ》も何《なん》とも質問《しつもん》を爲《せ》ぬのである。
院長《ゐんちやう》は玄關《げんくわん》の間《ま》で外套《ぐわいたう》を着《き》、市役所《しやくしよ》の門《もん》を出《で》たが、是《これ》は自分《じぶん》の才能《さいのう》を試驗《しけん》する所《ところ》の委員會《ゐゐんくわい》で有《あ》つたと初《
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