がときをつくるような音を出すこともできる。こんなのは、さすがに石太郎にもむずかしいとみえ、しんちょうなおももちで、からだ全体をうかせたりしずめたり――つまり、調子をとりながら出すのである。そいつがうまくできると、みんなで拍手かっさいしてやる。
 しかし石太郎は、そんなときでも、屁をくらったような顔をしている。その他、とうふ屋、くまんばち、かにのあわ、こごと、汽車など、石太郎の屁にみんながつけた名まえは、十の指にあまるくらいだ。
 石太郎が屁の名人であるゆえに、みんなはかれをけいべつしていた。下級生でさえも、あいつ屁えこき虫と、公然指さしてわらった。それを聞いても、石太郎の同級生たちは、同級生としての義憤《ぎふん》を感じるようなことはなかった。石太郎のことで義憤を感じるなんか、おかしいことだったのである。
 石太郎の家は、小さくてみすぼらしい。一歩中にはいると、一種異様なにおいが鼻をつき、ヘど[#「へど」に傍点]が出そうになる。そして、暗いので家の中はよく見えない。石太郎は、病気でねたっきりのじいさんとふたりだけで、その家に住んでいる。
 どこかへかせぎに出ているおとっつあんが、ときどき
前へ 次へ
全25ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング