れればよいがと、春吉君はひそかに願った。ならびの席にいる源五兵衛《げんごべえ》君は、鼻じるをすすりながら、ぶかっこうに大きな動物――たぶん、かめだろうと思われるが、ともかく四足動物の四本めの足をくっつけようと努力している。うしろの照次郎君も、与之助《よのすけ》君も、それぞれの制作に余念がない。
すこし時間がたった。春吉君はたすかったと思った。と、そのせつな、古手屋の遠助が、あ、くせ、と、第一声をはなった。すぐに、くせえ、くせえ、という声が、四方に伝わった。春吉君は、はずかしさで顔がほてってきた。
いつもと同じさわぎがはじまった。屁えこき虫の石太郎が屁をはなったときと、寸分《すんぶん》ちがわぬことが。
春吉君は、どうしていいのかわからない。もう、なりゆきにまかすばかりだ。
やがて古手屋の遠助が、きょうは大根菜屁《だいこんなっぺ》だといった。なんという鋭敏《えいびん》な嗅覚《きゅうかく》だろう。たしかに春吉君は、けさ大根菜のはいったみそしるでたべてきたのである。
やがてさわぎが大きくなりだしたころ、藤井先生が例によって、
「だれだっ」
とどなられた。春吉君は意味もなくねんどをひね
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