をゆるめたのか、なにかかき落とそうとするように、四|肢《し》をもがいた。するとそのとき、どろみぞからあがっていた石太郎は、ちくしょうと口ばしって、目にもとまらぬ敏捷《びんしょう》さで、いたちを地べたへたたきつけた。
 ぼたっと重い音がして、古いたち[#「いたち」に傍点]は、のびてしまった。春吉君は、いつも水藻《みずも》のような石太郎が、こんなにはっきり、ちくしょうっという日本語を使ったこともふしぎだったし、こんなにすばしこい動作《どうさ》ができるということも不可解な気がした。
 それはともかく、そのとき春吉君は、藤井先生が、このかたいなかの、学問のできない、下劣《げれつ》で野卑《やひ》な生徒たちに、しごく適した先生になられたことを感じたのである。といって、べつだん失望したわけでもない。けっきょく、親しみをおぼえて、それがよかったのだ。
 藤井先生は、石太郎ととらえたあのいたちを、ヘびつかみの甚太郎《じんたろう》に、二円三十銭で売った。その金で、小使いのおじさんと一ぱいやったという話を、二、三日して春吉君は、みんなからただおもしろく聞いた。先生はまだ独身で、小使室のとなりの宿直室で寝起《
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