っかん」に傍点]山では、今でもよく、きつねのちらりと走りすぎるのが見られますし、村の中でだって、寒い冬の夜ふけには、むじなの声が聞けるのですから。また、たとい、きつねやむじなにばかされないにしても、よっている人間というものは、ばかされている人間とあまりちがわないというわけです。
そこでみんなは、鳴物《なりもの》を持ってきました。かね[#「かね」に傍点]はお寺でかりてきました。おそうしきの出る時刻を、知らせてまわるときにたたく、あのかね[#「かね」に傍点]です。たいこは、夜番が「火の用心」といってはドンとたたく、あのねぼけたような音のたいこです。もと吉野山参りの先達《せんだつ》をなんべんもやった亀菊《かめぎく》さんは、ひさしぶりに鳴らしてやろうというので、宝蔵倉《ほうぞうぐら》からほら貝をとり出してきました。しかしひとふきふいてみて、おどろいたことにもうそのほら貝は、しゅうしゅうという音をたてるばかりで、鳴りませんでした。「こりゃ、ひびがはいっただかや」と亀菊さんはいいましたが、息子《むすこ》の亀徳《かめとく》さんがふいたら、そのほら貝はよい音で鳴ったのです。そこで亀菊《かめぎく》さん
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