落とした一銭銅貨
新美南吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)雀《すずめ》
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雀《すずめ》が一銭銅貨《いっせんどうか》をひろいました。
雀《すずめ》はうれしくてうれしくてたまりません。
ほかの雀《すずめ》をみると、
「ぼくおかねをもってるよ。」
といって、くわえていた一銭銅貨《いっせんどうか》を砂《すな》の上においてみせてやりました。
さて、日ぐれになりました。すこしくらくなってきました。
「や、遊びすぎちゃった。これはたいへんだ。」
と雀《すずめ》は、一銭銅貨《いっせんどうか》をくわえて、おおいそぎで水車《すいしゃ》小屋《ごや》の方へとんでいきました。この雀《すずめ》は水車小屋ののきばにすんでいたのでありました。
まだ水車小屋につかないまえ、はたけの上をとんでいたとき、あまりあわてたので、雀《すずめ》は銅貨《どうか》を落としてしまいました。
「や、これはしまった。」
けれどあたりはもう暗くて、雀《すずめ》の目はよくみることができなくなっていたので、
「あしたの朝さがしにこよう。」
といって、そのまま水車《すいしゃ》小屋《ごや》の巣《す》にかえりました。
その夜はたいへん寒かったので、雀《すずめ》はかぜをひいてしまいました。
それもそのはず、雪がどっさりふったのでありました。
雀《すずめ》はかぜがなかなかなおらないので、まいにち藁《わら》の中にくるまって、落とした一銭銅貨《いっせんどうか》のことを思っていました。
やがて雀《すずめ》はよくなりました。そこで一銭銅貨《いっせんどうか》をさがしにいきました。
まだ雪ははたけの上につもっていました。
「わたしの、わたしの一銭銅貨《いっせんどうか》、この下にいるのかい。」
と、雀《すずめ》は雪の上からききました。
すると雪の下から、
「いえいえ、ここにはありません。」
とだれかがこたえました。
雀《すずめ》はまたべつのところへいって、
「わたしの、わたしの一銭銅貨《いっせんどうか》、この下にいるのかい。」
とききました。
するとまた雪の下から、
「いえいえ、ここにはありません。」
とこたえました。
雀《すずめ》はあちらこちらとたずねてあるきました。
するととうとう、
「はいはい、ここにありますよ。雪がとけたらおいでなさい。」
とこたえました。
雀《すずめ》は雪のとけた日にまたはたけにやっていきました。銅貨《どうか》はちゃんとありました。
みるとはたけにはいっぱいふきのとうがでていました。銅貨《どうか》のあるところを雀《すずめ》におしえたのはこのふきのとうだったのでしょう。
底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書
入力:めいこ
校正:もりみつじゅんじ
2002年12月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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