あんたは、あなをあけちゃったの、まだ、こないだ買ったばかりじゃないの。
次男  だって、あながあいちゃったんだもの、ぼく知らないや。
母   うそおっしゃい。なにかわるさしたんでしょ。あなたの顔に書いてあります。うそをいう子は、顔が赤くなるからすぐわかります。さあどうしたか、いってごらんなさい。
次男  けんちゃんがわるいんだよ。
[#ここから8字下げ]
(泣きだす)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
母   ないてもゆるしませんよ。さあ、男の子はなんでも正直に、男らしくいうもんです。
次男  けんちゃんがレンズを持ってきて、黒いもんならなんでも燃えるから、やってごらんっていったから、ぼくうそだと思って……。
母   それごらんなさい。あなたは、そんなことをするんです。
次男  だって、けんちゃんが……。
母   そらまたもうひとつ。あんたはわるいことをしたうえ、ひとに罪をなすりつけるのね、ふたつもよくないことをしたんですよ。そんな子はもう、おかあさんの子じゃありませんよ。
長女  ごめんなさいって、あやまりなさいよ、次郎ちゃん。
次男  かあさん、ごめんなさい。
母   もうこれから、そんなことするんじゃありませんよ。お家《うち》はお金持じゃないんですからね。まずしいお家では、みんなが、品物をだいじに使わなきゃ、いけないんですよ。
長男  おそくなるからもういこうよ。もうみんな、お宮へいってるよ。
母   よし坊ちゃんのお靴《くつ》、おまえにはけるのかい?
次男  うん。
母   じゃあ、あれをはいてらっしゃい。
長女  あ、よし坊が目をさました。
[#ここから8字下げ]
(みんな病気の子の方を見る。沈黙)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
三男  にいちゃんたち、どこへいくの?
[#ここから8字下げ]
(母親、目顔で祭にいく子どもたちにだまっておいでと命ずる)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
母   にいちゃんたちはね、学校で式があるので、いかなきゃならないんですよ。
三男  うそいってら。
母   うそじゃありませんよ。お昼からね、校長先生のお話があるのさ。
三男  かあさん、うそいってるよ。顔見ると、ちゃんとわからあ。
母   あら、この子は。
前へ 次へ
全13ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング