えました。
 「じぶんは、いまさら死をおそれはしない。しかし、戦争に加わっていながら、こんな古井戸の中でのたれ死にをするのは、いかにもいまいましい。死ぬなら、敵のたまにあたって、はなばなしく死にたいなあ」
と、こうも思いました。
 まもなく少佐は、つかれと空腹のために、ねむりにおちいりました。それは、ねむりといえばねむりでしたが、ほとんど気絶したもおなじようなものでした。
 それからいく時間たったでしょう。少佐の耳に、ふと、人の声がきこえてきました。しかし、少佐はまだ半分うとうとして、はっきりめざめることができませんでした。
 「ははあ、地獄から、おにがむかえにきたのかな」
 少佐は、そんなことを、ゆめのように考えていました。すると、耳もとの人声がだんだんはっきりしてきました。
 「しっかりなさい」
と、中国語でいいます。
 少佐は、中国語をすこし知っていました。そのことばで、びっくりして目をひらきました。
 「気がつきましたか。たすけてあげます」
と、そばに立っていた男が、こういってだきおこしてくれました。
 「ありがとう、ありがとう」
と、少佐はこたえようとしましたが、のどがこわば
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